元警察本部警察官が教えます!

元警察本部警察官の管理人が警察についてあれこれ書いています。他にも法律、裁判、福祉等についても少々!

【職質は法的に拒否できない!】 職質の正しい知識教えます。

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はじめに

 本記事は、その時点で筆者が理解している範囲において、行政法を基に職務質問についての解釈を説明する記事です。

 そのため筆者の知識が増したり、解釈が変われば変化し得ます。 改めてご了承下さい。

 

 

 

1、公法

 憲法や行政法等は公法と言うタイプの法に分類されます。

 公法とは、行政の権限等を規定することにより権限の暴走を防ぎ、行政の権限から国民を守ることが目的です。


 権限を規定することで行政に権限を与えているのではなく、権限を規定することで権限を制限して国民を守っているんです。

 

 これを踏まえて読み進めてみて下さい。


 なお、

「そんな詳しい説明は不要」
と言う貴方はこちらをどうぞ。

 

www.policefuta.work

 

 

 

2、「職質って任意ですよね?」

 職務質問に関して必ず話題にあがるのが

「職質って任意ですよね?」

と言う話です。

 

 体験談や対策法としてネットでは

「職質は任意ですよね?」

と拒否して逃げれば良い等と書かれています。

 

 これについて、少し法律をかじったことのある現時点(2019年)での私の見解を書きたいと思います。

 

 もちろん、法的なレベルの根拠は示しますが、あくまでも私の見解です!

 

 

 

3、警察官職務執行法第二条

 警察官が職務質問を行えるのは警察官職務執行法(以下:警職法)に規定されているからです。


「職質って任意なんでしょ?」

の議論をしている人の大半は知っているようですが、一応条文を載せると、職質とは、

 

<警察官職務執行法 第2条1項>

 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

 


<同条 第3項>

~前略~ 刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

 


 はい、後者の第三項によって、

「強要されないから任意なんでしょ?」

と言うことですね。

 

 しかし、文章的に、

「無理矢理連れていかれたり、無理矢理発言を強要されない」

と言っているだけで、

「職質を拒否し逃げて良い。応じなくて良い」

とは言っていません。

 

 つまり、この段階では職質に応じるか、拒否するかを選択出来る任意とは限らないと言うことです。

 

 この辺り、答弁を強制したことにより違法な職質と判断された事案がありますので、

「答弁の強制って何?職質の拒否とは違うの?」

と疑問を持っている貴方はこちらを併せてお読みください。

 

【新たな職質の違法判決の説明をします。】

 

 

4、職質で行える有形力の行使

 職質を拒否し逃げようとする者に対して、一定の有形力の行使が、つまり武力を用いることが認められています。


 その場の犯罪の嫌疑の度合い等で認められない場合もありますが、過去に裁判で認められた一般的な武力行使の内容は、

◎ 進路を塞ぐ

◎ 自転車の荷台を掴む

◎ 逃走者の腕を掴む

◎ 車のキーを抜く

等です。

 

 つまり職質を拒否して逃げる者に対して有形力の行使をして、立ち去れないようにすることが裁判でも認められると言うことです。

 

 これは、やはり職務質問の任意とは、

【職務質問を受けるかどうかを選択できる任意ではない】

と解釈する方が自然かと思います。


 と、ここまでが元警察官としての知識だけで、私が主張していた意見です。

 ここからは、法律家の勉強経験を経てからの、今の私の意見を書いていきます。

 

 

5、職務質問は強制権限である

 職務質問は強制権限だと解釈できます。

 その説明をします。

 

<行政法の法理論>

 職質が強制であると説明するためには警職法ではなく、行政法理論の知識が必要です。


 法理論とは、法や条文による決まりではなく、法律を扱う上での原則のようなものです。

 行政法理論は、行政法を取り扱う上での法理論と言うことですね。

 

 説明が難しいのですが、法律・条文はありませんが、それに従わないといけない決まり事や原則のようなものです。

 

 法理論に従わなければならない根拠は

【公定力】

と言う行政の効力から説明されることがあります。

 しかし、そこまで行くと法律家レベルの話になってくるので省略します。

 

 そのレベルの話を知りたい人は、行政法を自身で勉強して職質と関連付けて下さい。

 そこまで興味を持てる貴方には出来ますので。

 

<行政の強制権限>

 行政の権限の中には市民の人権を無視できてしまう強い権限もあります。

 それは行政強制、一般的には強制権限と呼ばれます。

 

 その行政の強制権限については行政法理論で存在を認めています。

 つまり法律で

「行政の強制権限とは」

としているわけではないと言うことですね。

 

 もう一度言いますが、法的な根拠は法理論なので、

「何と言う法律の、何条なの?」

と言う疑問は法理論を理解されていないと言うことになります。

 

 法理論の概念は、

【法的根拠】

と言う概念の、更にその先の深い専門的な部分ってイメージで問題ありません。

 

 行政法理論上、行政の強制権限は大きく5種類あります。

◎ 直接強制 : 義務を無視する人の体や財産に直接有形力を加える

◎ 執行罰 : ほとんど存在しないので省略

◎ 強制徴収 : 税金の支払い等を差押え等によって徴収する。

◎ 代執行 : 義務を無視する人に代わって行政が執行し、代金を請求する

◎ 即時強制 : 命令や指示をする暇がなく、必要な時に行使する強制権限

です。 

 

<即時強制>

 職質を説明する上で重要なのは即時強制です。

 上記説明をもう少しだけキチンと表現すると、

 

【義務を命じる暇がない状態で、今すぐやらなければ色々と社会的に不具合が生じてしまうような場合に、人の身体、財産等に実力行使できる強制権限】

です。


 他の強制権限前もって命令したり、状況を観察して書類に残して検討したりと言う手続きを経てから行使します。


 しかし、即時強制だけはそのような事前手続きが存在しません。

 それらをする暇がない時に行使する強制権限ですからね。


 そこで行政法理論です。

【1 公法】

で書いたことを思い出して下さい。

 

 行政法は公法です。

 公法は、行政の権限を規定することで、権限を制限し国民を守るタイプの法です。

 そのため事前手続きが不要な即時強制は、最も公法で規制すべき存在と言っても過言ではないかもしれません。

 

 そこで規制するために活躍するのは、やはり法理論です。

 法理論は、強制権限の存在を認めると共に、規制もしているわけですね。


 命令等の手続きをする暇がない時に行使する強制権限だからこそ、野放しにはできません。

 それを野放しにしたら何でも有りになってしまいますので。

 

<即時強制を行使するための手続き>

 こんな何でも出来てしまうような強制権限に対して、公法である行政法の法理論が黙っているわけがありません。


 そこで行政法理論では、

「即時強制を行うためには、それを行うための個別の法律が作られていないと執行してはいけません。」

と規定しました。

 

 つまり、即時強制の権限は、別に法律を作り、その法律の内容に従って行使しないといけないわけです。

 

 ここまで言えば、勘の良い人はわかりますね?

 そうです。

 警察官職務執行法は、この即時強制を行うための個別法です。

 

 

6、職質は即時強制

 職質を行う法的な根拠が警察官職務執行法です。

 その警察官職務執行法は強制権限である即時強制を行使するために作られた法律です。

 

 そして、職務質問は、この即時強制の代表例の一つに含まれています。
 つまり、職務質問は警察の強制権限によるモノです。

 任意ではありません。

 

 まとめると、

 刑事訴訟法に則った令状主義な裁判所の手続きとは違い、相手に何か命令等を発している暇がない状態(疑いがある者に逃げられてしまう等)で、停止させて質問が行える。

と言う強制権限なんですね。

 重要なのでもう一度言います。

 即時強制とは、実力行使も行える強制権限と言いました。

 そして、職務質問はその一つです。

 

 つまり、職務質問に応じるのは強制。

と解釈できます。

 

 義務に応じない場合は有形力の行使が行えるのが強制権限です。

 職質はどうでしたか?

 応じないで立ち去ろうとする者には腕を掴む等の有形力の行使が裁判で認められていましたよね?

 

 そうすると、やはり職務質問の任意とは、応じるかどうかを選択できる部分での任意ではない。

と解釈する方が自然です。

 

 そのため、職質を拒否して、逃げると言う選択肢は妥当とは言えないと思いませんか?

 

 

<職質は停止権限でもある>

 なお、職質はただ単に質問する権限ではなく、

【停止させて】

質問する権限です。

 

 停止させることも食う質問の権限となっています。

 むしろその部分が強制の特色が一番強く出る部分だと思います。

 実際に警察学校でも、警察官が人を停止させることが可能な権限の一つとして職務質問を上げて教育しています。

 

 

 

7、執行力

<行政特有の効力>

「強制権限は司法を通さないと行使できない」

と思っている人も多いかと思います。

 

 そのため

「職質が強制権限なら、停止させる最初の段階から令状が必要だろ?

と思うかもしれません。

 しかし、実はそうではありません。

 

 今回紹介した強制権限は全て行政の強制権限です。

 それを可能にしている理由が、行政の行う行為に認められている特有な効力になります。

 

 行政特有の効力は主に4種類あり。

◎、公定力

◎、不可争力

◎、不可変更力

◎、執行力

となります。

 

 今回重要なのは最後の

【執行力】

となります。

 

 それ以外の特別な効力の詳細についてはこちらをお読みください。

 www.policefuta.work

 

 

<執行力>

 執行力とは何でしょうか?

 簡単に言うと、

【行政が裁判所の力を借りずに、自らの判断で強制行為を行える効力】

のことです。

 

「ゴミ屋敷対策として行政代執行を行いました。」

なんてテレビでも見掛けますよね。

 あれが行えるのはこの執行力が認められているからですね。


 職務質問も同じです。

 実はこの執行力が働くため、即時強制として個別法(警職法)内で規定している範囲であれば令状(裁判所)は不要なんですね。

 だから職質が即時強制だとしても、最初の段階から令状が必要なわけではありません。


 執行力は、行政独自の判断で強制行為を行える効力ですからね。
 紹介した記事をお読みいただければわかることですが、一応その根拠を言っておくと、行政法理論です。

 

 法理論なので、法律や条文はありません。

 法の根拠とは、成文法や判例法等が全てではありませんからね。

 

 このような法学に興味があればこちらをオススメします。

www.policefuta.work



 

8、職質は行政指導ではない

 中には

「職質は行政指導だ!」

との意見も見掛けます。

 

 行政指導とは、助言や指導、お願い事のことで、強制力は一切ありません。

 完全な任意行為です。

 

 従う必要はなく、有形力を行使するなんてもっての外です。

 法律上の根拠も不要です。
 つまり警職法等のような個別法は必要ありません。

 

 行政指導と解釈する場合、警職法と言う個別法がある時点で不自然です。

 要は、基本的には行使するための要件もないと言うことですからね。

 

 職質には行使するための要件がないのでしょうか?

 要件は警職法第2条1項、2項にありましたよね?

 行政指導に要件が設定されているのはとても不自然です。


 更に、行政指導は完全なお願い行為ですので付随した行為なんて存在し得ません。

 しかし、職質には付随した行為として所持品検査等があります。


 職質を行政指導だと解釈するにはとても違和感があります。 

 

 

9、そもそも警職法は即時強制を定めた法律なの?

 そもそもの話として、

「警職法は行政手続き法による即時強制を定めた法律なの?」

と言う疑問があります。

 

 私の本記事では、その部分の詳細説明を省略してしまっているため、

【警職法は即時強制を定めた法律と仮定した場合】

として話を進めてしまっている印象を与えてしまっているようなんですね。


「仮定なら、根拠にならないじゃん!」

となって当然です。

 

 そのため、

【警職法は即時強制について定めた法律】

の根拠ついては別記事を作成していますので、そちらを併せてお読みください。

 

www.policefuta.work

 

 

 

10、最後に

 法はただ単に、根拠法令の条文を見るだけでは見えてこない事も多いです。


 今回は

「そもそも何で警察はそんな権限を持ってるんだろう?」

を警職法より更に深い部分まで見たものです。

 

 今回のように、職質には原則的には応じなければならないと解釈するなら、市民側が行えるのは、そもそも職質を受けないように対策することです。

 

www.policefuta.work

 

も併せて読んで対策してみて下さい。

 

 

 そして、現職の警察官も本記事を読んでいたとしたら、このくらいの説明が即時に出来るようになると少しは説得力が強まると思います。

 

 他に

「職質にノルマがあるんでしょ?」

と言う疑問をお持ちの方は、併せてこちらの記事もどうぞ。

 

www.policefuta.work

 

 

 

【記事の紹介・拡散について】

 友人やネットの掲示板等に記事を紹介してくれる方がいらっしゃるようです。 本記事は無断でも紹介可な記事です。

 

 追記:特に本記事関してこのような状況が多いため、こちらの記事を読んでから使用検討をして下さい。

www.policefuta.work

 

 

 読者登録をしていただくと更新記事等を読みやすいと思いますので、是非検討して下さい。

 

 

 これからも宜しくお願いします。